令和における「本の価値」
福田:以前ブランドコンサルタントをやっていたときに、いろんな企業から、売り出す商品についての相談を毎日のように受けていたんです。そのときに感じたのも今のサラブレッドの話と同じで、付加価値が高い、つまり金額が高いものしか残らない、ということでした。ユニクロでさえ、コラボTシャツなどの付加価値があるもので成り立っている。普段はコモディティ化されたものを売っているけれど、収益のほとんどは高級な付加価値がある何かですよね。エルメスなんて、若干の広報費はありますけど、年間の宣伝費って全然ない。「なぜないんですか」と聞くと、「いや、もうブランドがあるから」と。だから高付加価値というブランド化が成功することによって生き残っていけるし、勝てるし、強い。
田中:そうですね。ブランドというのは、僕も広告代理店時代、ずっと取り組んできました。
福田:プロでいらっしゃいますもんね。
田中:でもやっぱり急にブランド化はできなくて。「ブランドってなんですか」って企業の人に聞かれたときは、「ブランドというのは、物語です」と答えていました。例えばZippo。あれは高価な商品じゃないけどブランドですよね。でもそれには第二次大戦とかベトナム戦争とか、戦地でも消えなかったというエピソードがあるし、実際にベトナム戦争を戦い抜いたZippoが残っていたり。
福田:ああ、面白い。
田中:「どしゃ降りの戦闘のときもタバコが吸えた」っていう兵士の証言とか。つまりそういう物語、ストーリーというのがブランディングじゃないですかねって、適当なことを、まあ(笑)
福田:とっても分かりやすいです。20世紀はマスマーケティングの時代だったから、「知ってください」「買ってください」だけの戦略でいけたわけですよね。でも今は、「知っていて買ったけど、だからどうなの?」となった。で、ほとんどの製品がある程度のクオリティーが担保されているし、エンタメでいえば素人でも、You Tubeで番組が作れちゃう。つまり、完成品に対する感覚が麻痺していて、そのブレークスルーをどうするのか?という課題が今はあるのかもしれません。マスマーケティングのビジネスモデルが壊れた今、田中さんはその中で特に出版に目を付けてイノベーションを起こそうと思われた。そのきっかけというのは何でしょうか?
田中:一つはやっぱり、印税率が低いという自分の不満、問題点ですね。あとはもう一つは、福田さんのおっしゃる「紙を大量に刷ったら最後、まず森林破壊だし、最後は断裁して燃やすかも」という、これにもすごく共感するんですけれども、現時点では、紙の本はある種の「でかい名刺代わりになる」ということです。
福田:意味ありますね。
田中:流通するときにおいても、個人のアイデンティティにおいても、意味があるなと。これ、僕の著書なんですが、今日はその2冊を持ってきました。よろしかったら、ぜひ読んでください。『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)『会って、話すこと。』(ダイヤモンド社) という2冊です。 僕自身が紙の本を出すことで、3年間ぶらぶらしていたけれどあっという間に人生が変わりましたから、やっぱり本というものの価値は高いなと思いまして。これがまだ紙にこだわる理由の一つですね。あとはさっきのお話のように、紙は最終的には工芸品として残っていくということです。