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「経済の安定=少子化の解決」には疑問

医療未来学の第一人者と語る「死ねない時代」にフィットする国家像とは?(前編)   Talked.jp

福田:最近疑問に思うのは、岸田首相が言うところの「異次元の少子化対策」についてです。「せめて3次元ぐらいにしてくれよ」って思うんです。異次元でやられても困るじゃないですか(笑) それに今さら日本が後進国のように子どもを産めよ増やせよ、というのもおかしな話で、僕はこれでいいんじゃないのかなと思うんです。今から年間80万人か100万人、新生児子を10年育てて、延べ1000万人行くか行かないかとします。でもかつては60歳で亡くなっていた人たちが、仮に100歳まで生きる時代になると、40年分の労働力は医療によって確保できるわけですよね。大企業では定年だとかってなりますけれども、個人のやる気で考えたら健康寿命が延びることは、新生児の出生率とトレードオフできるんじゃないかと。もちろん、理論上ですよ。子どもがたくさんいたほうが社会にとっていい部分もあるとは思うんですけれども、労働力の観点から言えば、べつにたくさん子どもを産み増やす必要はないんじゃないかなと思っちゃったんです。

奥:はい。私もそんなことをちょっと夢想します。というのは、ヨーロッパのほとんどの国は(人口)1億人もいないですよね。大体日本の半分とか、3分の1あたりに落ち着くと思うんですよね。ただちょっと心配なのは、日本の人口動態のカーブを見ると、もっともっと減ってしまいそうで。そうすると社会機能を維持できないぐらい減ってしまうのかな、と。たとえば今のお話で60歳から100歳までは労働人口になりうるけれども、でもそれは万能AIが出てくれば別ですけれども、人間だけで考えると、力がいる仕事とか、若い人じゃなければ難しい仕事は一定の割合でありますよね。それが持たないぐらいに若者が減ってしまうと、それはそれで困るかなと思います。でも福田さんがおっしゃるように、岸田さんの少子化対策はどこか現象論だけに向かっていて、本質的な解決じゃないのでは、という意見には同意です。 特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)が「1」を切っていくのは、もう当たり前の話だったわけです。そういう中で産めよ増やせよと言われたって、田舎と都会でも違うと思いますけれど、少なくとも都会で観察していると、可処分所得がありそうな人たちでも、若い人たちは(子ども)2人目をもつことを非常に躊躇しますよね。

福田:戦後の先がよく見えない状態のときのほうが、子どもを作ることにそう躊躇がなかった。だから経済の安定と子作りって、じつはあんまり関係ないのではないでしょうか。後進国は、子どもをたくさん作りますよね。いくら政府から「子どもを3人産めば、1000万あげます」と言われたって、それは解決にはならないんじゃないのかと僕は思うんですよ。

奥:そうですね。そもそも1000万円では育てられないですしね。

福田:育てられないですよね。だからいつのまにか、みんな「経済的な保証がなければ、子どもは産めない」という思い込みを植え付けられちゃったんじゃないかなと。

奥:それは、本当にそうだと思います。

福田:経済的な保証以前に、愛のある社会にすれば、子どもは産まれると思うんですが、社会の空気が殺伐としちゃっているじゃないですか。でも僕は、結構、人口が減るのは悪くないとも思っていまして…。田舎も都会化が進んでいて、車で10~20分くらい行けばイオンもありますし、生活のインフラはすでに整っていますよね。だから、GDPでは日本の半分ぐらいのイギリスぐらいの規模が理想なんじゃないかな、と。日本は、イギリスの「ちょっと温暖な四季がある」国ぐらいを目指せば、社会問題は解決できちゃうんじゃないかと楽観的に思っちゃいます。

奥:「異次元の少子化」というネーミングを使うなら、「異次元の将来人口動態像」ということで、「4000万人で戦う日本!」とか、そういう割り切りをしてほしいですね。

福田:いいですね、「4000万人で戦う日本」。

奥:3000~4000万人ぐらいでいろいろ頑張れば、スティブルになるかもしれませんよね。それと、どのぐらいの人口であれば、若い世代の何割くらいが子どもを産みやすいとか、そこもきっちり計画すればいいですよね。誤解を恐れずに言えば、一夫多妻とか、逆に一妻多夫とか、じつはそういう文脈も本当は必要な話なんですよね。

福田:僕も、多様性っていうのはそこまで含めて議論するのが本当に大切では、と思います。

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