「匿名性」と「非匿名性」社会
奥:暮らしやすい社会のキーワードとして、「匿名社会」と「非匿名社会」の違いがあると思います。たとえばいまの100万人の話、沖縄のような地域は非匿名社会だと思うんですよ。例えば、今日こちらに伺うまでの時間つぶしに、ミッドタウンのスタバに行ったんですけど、まず誰1人知り合いには会わないわけです。なので僕にとってミッドタウンのスタバに行くというのは、もう完全に匿名行為なんですよね。
福田:なるほど。
奥:少なくとも東京は、本当に匿名社会だなと明確に意識しました。福田さんが行き来する沖縄は、匿名ではないですよね?
福田:ないですね。家からビーチまで5分くらい歩くのに、いろんな人が声をかけてきて、1時間くらい時間をとられます。
奥:(笑) そのくらいの緩くつながる知り合いを、皆さんがどれくらい欲しているのかは分かりませんが、少なくとも都心のスタバに行くのとは全然状況が違いますよね。 たとえばFacebookのコミュニティとかInstagramとか、そうやってみんなSNSでつながっていますよね。あれはそこのグループ、その集団、自分から見えているところは、非匿名コミュニティなんですよ。知らない人が混ざっていたり、肩がぶつかって喧嘩になったりしないわけですよね。
福田:しないですよね。
奥:そこで一周回って考えると、どのくらいのサイズのコミュニティが心地よくて、どっちが好きですかという話なんです。福田さん、どっちが好きですか?
福田:僕はミッドタウンのスタバですね(笑)
奥:ミッドタウンのスタバが好き? やはりそれは都会というものにアダプトした人の共通した特徴ですね。僕もそういう知り合いが多いです。知り合いというコミュニティも楽しいですけど、ミッドタウンのスタバも楽しいんですよ。
福田:分かります。匿名性を楽しめる。
奥:そう、その匿名性はもう失いたくない。なので、そういうところがIT技術やメタバースを使うと、匿名性も非匿名性も、どっちも楽しめるかもしれませんね。匿名性社会の代表的存在のスタバって、放っておいてくれるし、気楽ですけど、でもあそこにずっと一人きりだとまたそれも寂しくなって、やはりみんなが飲んでいるカフェラテを飲んでみたい、となるわけですよ。
福田:そうですね。田舎に1人で行って執筆活動しろといわれても筆はなかなか進まないけど、ファミレスに行くと進むという、あの理論ですね(笑) だから都会というのは、一つの発明だなと思います。
奥:都会ってすごいものですよね。そして匿名性のある都会が、少なくとも日本代表的に、高度経済成長を支えたわけですよね。社会が発展するフェーズでは、匿名性はとても必要だった。いまここにきてSNSなどのツールができたり、人口が少なくなってきたりする問題があって、匿名性をどのくらい確保しなきゃいけないのか。岸田さんがこれからの国家のありようとして、そういう議論をしたらかっこいいのに、と思います。