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デジタル社会の今こそ、リアルを取り戻そう

ネットを捨て街に出よ ~五感に響く生き方がすべて~ Talked.jp

福田: 最近、世の中の企業から、「デジタルにシフトしたのは、間違いだったのでは」という声が次第に上がり始めてきました。これは、様々なデジタルコンテンツのキャンペーンを行っても、その具体的な数値の計測が複雑で、不透明な部分があったからだと思います

デジタルが信じられないという背景には、「デジタルフラウド(=デジタル詐欺)という言葉の横行もあります。ヘイトスピーチなどですね。イギリスでは政府批判をしている映像に対して、政府系の広告が勝手にマッチングしてしまったことがありました。アメリカでは中学生の8割が「オバマはアフリカ生まれだ」と信じて、トランプに投票してしまったということもありました。

そういったデジタルのいい加減さというのが、どんどん表面化してきた今、僕自身は、「再びリアルに、アナログに戻らなければならない」と強く感じています。今日の本題でもありますが、やっぱりこれからの時代は、もっと五感を研ぎ澄ましたことをやっていかなければならないと思います。

 僕はデジタルコンテンツの会社を10年以上経営してきましたけれども、たとえば先週1週間で、スマホで見たデジタル広告の中で記憶に残ったものはあったかと問われたら、全然ありません。それは僕が中年だからなのかもしれませんが、記憶に残る広告といえば、かつてのサントリーの顔が出てくる広告や、僕が新卒で入社した東北新社でパシリをやっていた「I feel Coke」でお馴染みの、コカ・コーラのCMなどです。思い出深いCMが多くあるのは、昔はテレビCMがしっかりとブランディングを兼ねていたからなんですね。

一方のデジタル広告は、平均0.6秒しか見ないと言われています。Amazonで買い物をすると、どのサイトに行っても、買ったものの広告が追っかけてきますよね。あれはリターゲティング、通称「リタゲ」といいます。あんなストーカーみたいなことされて、「じゃあ買おう!」と思う確率は0.01パーセントだったとしても、すごい数でリタゲをやっていたりすると「アドテクがすごいね」「デジタルはすごいね」となってしまう。

でも果たして本当に、それがユーザーに愛される施策なのだろうかといったら疑問です。企業というのは、べつに今年1年で終わりを迎えるわけではありません。花王もトヨタもソニーも、100年、200年繁栄を誇りたいわけです。だからこそ広告の在り方というものを、デジタル全盛期の今だからこそ、見つめ直すべきじゃないかと思います。「ブランディングが大事だ」と僕が繰り返し言っているのは、どんな年代の人でも、そこに憧れをつくることができれば物事は解決していくんじゃないか。今はそういう構造にあるということを、今日はご理解いただけたら幸いです。

「最新のテクノロジーはこう使いこなせ!」というような情報が溢れて、「もうついていけない」と、みなさんが感じることは増えていくでしょう。新約聖書のマタイ伝第九章の一節では、「新しいお酒は新しい革袋に」とあるものの、お酒の味というのは変わらないし、24時間も変わらない。ですから、人間の営みそのものを大切にしていかなくてはならないんじゃないかなと、僕は思います。そのためには、全ての人が五感を全開にして生きていける社会、リアルな社会を取り戻さなくてはならない。スマホという人生のリモコンを手にして街に出られるようになった今、この最高のツールを利用して、もっと自分たちのリアリティーを取り戻すべきではないでしょうか。

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