フランスのエキスパートとして活躍
福田:芳野さんがフランスで10年過ごされて、日本に戻ろうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか。
芳野:オフィシャルには、「そろそろ戻らないと、就職もあるし」ということなんですけど。個人的には、10年暮らしてみたので、もういいかなという。私、初めての外国暮らしが初めての1人暮らしで、ほんとにたくさんの刺激があって楽しかったんですけど。でも、「外人」で「学生」で、大人と言えるかな、みたいな。やっぱり自国で、社会にがっつりエントリーしたいなと思ったんです。
福田:20歳頃から10年間。大事な10年間でしたね。
芳野:そうですね。帰ってきたタイミングも、ぎりぎり良かったなと思います。仮に60歳で帰ってきて社会にエントリーとなると、「ゲスト出演」みたいになると思うんですけど…。
福田:ゲスト出演!(笑) たしかに。
芳野:やっぱり社会を知るには、エントリーしないとわからないことってあるんじゃないか、と。外国人でできるエントリーは、限られていると思ったんです。それで帰ってきたんですけど、本当に10年も海外にいて、しかも社会人経験ゼロで、もう後天性帰国子女というか、いろいろ全部遅れて、かろうじて、フランス語をちょっとしゃべれるという。
福田:日本にとってはすごいことですけどね。
芳野:なので、そのキャッチアップが結構大変でした。それはそれで外国生活と同じような。2度目の外国生活みたいな。
福田:どうされたんですか。帰国されてからは。
芳野:まずは非常勤講師のお仕事を始めて、大学に職ができました。そこから仕事の幅が広がって。いわゆる一般企業に勤めた経験は一度もないです。
福田:それはまたすごいことですよね。アートとの関わりもおありになるんですよね。
芳野:今、セゾン美術館をはじめとして、幾つか美術館の役員をやらせていただいています。プルーストとファッション、アートなどの研究をしていたので声を掛けていただいて。そうしているうちに、またほかでもご縁ができて、お声を掛けていただいている感じですね。
福田:なるほど。芳野まいさんはどういう人だととらえられているんでしょうか。フランスの文化やアートやファッション、食…。
芳野:ふわっとした領域の人だと思われていると思います。でもそれでもやっていっているのは、フランス語とフランスの経験という軸があるからで。
福田:フランスということは、一つのキーワードになっていいわけですね。
芳野:そうですね。10年かけて自分のシステムに取り込んだもの…といえると思います。