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エリート不在で起こる「分断」

デザイン経営時代のブランディング いま、必要な「エリート論」~マクロン大統領とナポレオンの戦略

福田:それはすごいですよね。僕、その話を芳野さんから聞いたときに、ちょうど去年の台風19号の後で、自民党の二階俊博幹事長の暴言に批判が集まったじゃないですか。甚大な被害が出ているのに、「まずまずで収まった」とか言っちゃって。萩生田光一文部科学大臣の「身の丈」発言とかもね。後で発言を取り消すわけなんですけども、あれって多分「本音」なんですよね。だから、ぶっちゃけた本音を政治家が言い続けることの害悪ってすごく大きいなと思ったんです。庶民感覚では、ひょっとしたらそうかもしれない。だけど政治家は、「それは言うなよ」っていう話ですよね。

芳野:マクロンはやっぱり、言ってはいけないことは言わない。必要以上に謝ったりもしない。私は最初はそんなに評価していなかったんですけど、だんだん「レジリエンスの高い人だな」と、私のなかでの評価は上がりました。

*レジリエンス(resilience)とは、「回復力」「復元力」または「弾力性」とも訳され、ストレスと言った外的な刺激に対する柔軟性を表す言葉。

福田:日本の政治でも、安倍首相なんかはすぐ口だけ謝るじゃないですか。全然、心こもっていない感じで。それ見るとみんな、「もっと心を込めて謝れ!」って方向に行ってしまって本質が解決されないという、負のスパイラルになっていますよね。だから、マクロンの理想を説くエネルギーのある姿っていうのは、政治家に絶対必要な要素だなと思ったんです。

芳野:リーダーシップということですよね。日本とはもちろん文化が違うのですけど、フランスでもしリーダーがすぐに謝ったりしたら、「そんなに簡単に撤回できるようなことを堂々とやっていたのか」と、もっとバッシングがあると思います。

福田:日本の政治のひどい状況が全く変わらない今、僕は芳野さんがおっしゃっていた「新しいエリート論」みたいなものを世に広めなきゃいけないんじゃないかと思いました。ちょっとえらそうですけども。芳野さんのお話がきっかけになって、その後「エリート主義とは何か」について検索したり、何冊か本を読んだりしたんですけど。

芳野:すごい。

福田:そのことが気になって。だって今、トランプがツイートで人の悪口ばかり言ってるせいで、分断が起こっているじゃないですか。僕、最近ロスに行って、イミグレでこれまで遭ったこともないような、差別的な目にもあったんですよね。…なんというか、人の心がすさんでいた。カリフォルニアやロサンゼルスにいるような人はリベラルですよ。でも、ちょっとずつ空気が、肌感が変わってきている気がしました。自国の大統領があれだけぶっちゃけ本音ばかり言うから、今までは人間性を保ってきた人も、「黒人とアジア人とヒスパニック、ちょっと悪口言ってもいいかな」っていう空気が流れている気がしたんです。

芳野:それは、良くないですね。

福田:ちょっとそんなふうに感じる場面が何度かあったんですよ。幾つかの事例だけで結び付けてはいけないと思うんですけど。やっぱりリーダーの影響って受けちゃうんですよ。だから安倍さんがうそついたりいろんなことを開示しなかったりすると、「それでいいのかな」っていうふうに官僚は思うだろうし。で、官僚が「それでいいや」と思うってことは国民もいろんなところで、「なんかうまいことやってやろう」と思うようになって、国を良くしようっていうふうにならない。

だから今、理想主義を追求するエリート教育が本当に大事だと思うんですね。最近フランスのエンジニア養成機関「L’association 42」の東京校として、一般社団法人『42 Tokyo(フォーティーツートウキョウ)』*が設立されたんですよね。もとはフランスのプログラマー養成学校で、むちゃくちゃ難しいプログラミングを勉強させて、追いつけない生徒はどんどん脱落していくけども、トップクラスの人はほとんどGAFAに就職できちゃう。

昔で言ったらスパルタ式ですよね。そういう教育、日本にはしばらくなかったじゃないですか。ゆとり教育とか、ちょっと凡庸な感じになってきて…。で、「やっぱり教育を見直そう」ってなったのはいいけども、ベネッセと文科省の癒着問題で大学入試の「英語民間試験」の導入が延期になったりして、混乱している。これ全部、やっぱりエリート教育がないせいじゃないのかな、とさえ思っちゃって。

*2020年1月から入学試験開始、2020年4月に開校予定。
https://42tokyo.jp

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