身の丈を知らないと戦い方を間違える
福田:特別科学組の勉強についていけず、脱落した人も「楽しかった」と。そこがまた面白いですよね。
芳野:そう、だから遠慮せずにできる。…私、かけっこがめちゃくちゃ遅いんですよ。常に6人中6位でした。でも、それは別に挫折の経験にはなっていなくて、「なるほど、私はかけっこが遅いんだな」とすんなり認識できたんですね。
福田:たしかに、みんな平等に手をつないで1位とか言われても、自分のことがよく分かんないですよね。
芳野:本当に。で、元特別科学組の人は脱落して普通の学校に行ったら、超絶スーパーエリートなんです。勉強ができることだけが素晴らしいということでもないから、しっかり競争したほうがむしろ楽しい。平川先生はそういう方でした。先生は『特別科学組―もう一つの終戦秘話 東京高師附属中学の場合』(大修館書店)という 特別科学組についての本も書いていらっしゃるんですが、それで、特別科学組をやめてった人たちも、「楽しかった」と。
福田:面白い。
芳野:それぞれの得意分野で頑張ればいい、と。中途半端に頑張って、中途半端に褒められると、己を知らないから、戦い方を間違える。
福田:己を知らないから、戦い方を間違える。これ、むちゃくちゃいいね。それ、大事ですよ。
芳野:イタリア語のクラスで私が80人中1人残ったっていう時点で、「(自分は)そういった戦い方かもしれない」と思うじゃないですか。
福田:間違いないでしょう。すごいことですよ。
芳野:たまたま入っちゃったんですけど、出るに出られなくなって…。でも、私の人生は、そういうよく分からない強いエネルギーに引っ張られていくのがいいのかな、って。出ていくという強い意志もなくて、「乗っかったほうが、楽かな、楽しいかな」みたいな。やめるっていうのも結構なエネルギーと決断が必要じゃないですか。自分にはそういう合理的な判断があるんだ思います。こんなに強い信念と方針がある先生なんだから、ついていったほうが面白いかもって。
福田:そこでしょうね。
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