アート教育は、現代のエリート教育だ
アートっていうのは、特段崇高だというものではないと思います。むしろ、近未来にいろんなものが合理化されて膨大な時間が生じたときに、一番大事で不可欠なセンスのことではないかな、と。それを皆さんが、この緑豊かな横浜美術大学で学んでいるということは、最高の環境の中にいるわけです。最高の中の環境にいる人は、意識を高めなければいけないんですね。言葉に齟齬があるかもしれませんが、いうなれば「エリート」なんですよ。アート教育というのは、=エリート教育なんですね。今、エリートがなぜ大事なのかというと、「理想を追求する人」だからです。
フランスは少し前から、暴動が起きたりして大変なんですね。2018年秋ごろ、「イエローベスト運動(黄色いベスト運動)」というのが起こりました。これは燃料税(炭素税)の引き上げ反対がきっかけで、市民が街頭に出て、黄色いベスト(反射チョッキ)を着てデモを行う運動なんですけども。同時に、「市民の期待に応えていない」として、マクロン大統領*はむちゃくちゃ非難されて、人気はどん底まで落ちました。
でもマクロンは、地方に出かけてタウンミーティング(政治家との対話集会)で、何時間でも住民の疑問や悩みに対して答えるんです。YouTubeで6時間とか7時間とか。検索したら出てきますけども、僕はフランス語が分かりませんが、その熱意は伝わりました。どの町に行っても休まずに、「理想はこうだ」と話し続けるわけです。僕はそうやって、何時間でも理想を語り続けることがリーダーの役目だし、そういう人がいれば、みんなはそこに近づこうとすると思うんです。で、皆さんがここでアートのエリート教育を受けているということは、そういうマクロンのような熱い意識をぜひ持っていただきたいんですね。つまり、情熱が意識を変革させる力を持っているということです。例えば、自分の寿命が100歳は達成できなかったとしても、80歳くらいまではいけますよね。でも「オレは50まで生きられたらいいんだ」って言ったら、49歳までしかいけないかもしれませんよね。 日本の今の政治家の人を見てくださいよ。日本に暮らしていて自国のことを悪く言いたくはないんですけど、「英語の教育? そこそこでやればいいんじゃないの」「台風19号の被害? ああこんなもんで済んだね」。後でみんな撤回して謝っていますけど、あれ本音でしゃべっているんですよ。本当に、本音でそう思っているんですよ。政治家でリーダーだったら、本音ではなくて理想を言ってほしい。理想を言ってくれないと、僕たち国民はどこへ行っていいか分からないじゃないですか。
*エマニュエル・ジャン=ミシェル・フレデリック・マクロン。フランスの政治家、第25代フランス大統領
(コロナを経験して)
たいていの革命は、それまでの慣習に囚われない若者が成し遂げています。「年寄りはダメ」という話ではなく、前例がなく挑戦できる能力をもった人こそ、ポストコロナのリーダーに成り得ると思います。