世界で始まっているイノベーション~精密医療
次は、医療におけるイノベーションの話です。病気になると、つらいですよね。「風邪かな」と思って病院に行って長時間待ったりして、治療して、時には注射もして、全部つらいですよね。
でも未来は、「未病」「予測医療」というジャンルが、病気という概念を変えていく可能性があるんです。それは精密医療(プレシジョン・メディスン)といって、「それぞれの患者に合った最適な治療を行う医療」のこと。このプレシジョン・メディシンが最も進んでいるのは、がん治療の分野です。
女優で、養子も含めて6人のお子さんのお母さんでもあるアンジェリーナ・ジョリーさんは、2013年に「将来の乳がん予防のための乳房切除」を行い、議論を呼びました。「がんになるかもしれないということを知ったから、取った」と。その2年後には、卵巣と卵管を摘出する予防手術も受けた。これは大変な決断ですよね。彼女の場合は、ご自身の母親が卵巣がん、叔母が乳がんで亡くなっているそうです。これは「ゲノム((遺伝情報)解析」といって、40億塩基ある人間のDNAを全て数値にして調べるんです。で、「あなたは1年後にがんになるかもしれませんよ」という数字が出ると、本当になるんだそうです。自分のDNAの配列の中で、「ここの数字がおかしい」というと、それをAIがいろんなパターンを見て、「それにはこの免疫力を高めるべきだ」なんていうことを行うのが、最先端医療なんですよ。
アンジョリーナ・ジョリーも、それを信じて、そういう手術をされたんですね。「病気は苦しい、かかってしまったらどうしよう」という受け身の考えを、未病という対策を知って、「なるかもしれないから、じゃあ治そう」と、「攻め」に転換する。これはすごいことだなと思います。まだまだお金もかかるし保険でも賄えないんですけども、皆さんが中年になる頃、いえその前には、こういった治療法が世界で確立しているかもしれませんね。
(コロナを経験して)
コロナ禍になって、改めて健康について考えさせられた方は多いと思います。やはり「病気になって治す」というよりも、「病気に対する免疫力をつけよう」という、予防医学の方向に舵を切るべきでしょう。そのためには、精密医療に保険を適用することで、高額な医療費を削減できる社会へのシフトが望まれます。「痛い」とか、「苦しいから病気を直す」という概念とはまったく違う、「健康体を持続させ、体質を強化(免疫力や遺伝子治療)する医療」が健康寿命を伸ばすのです。つまり、社会全体の考え方が変われば医療制度も変えられるのです。