アンラーニング(unlearning)という生き方
福田:…というか、「何が何でもモデルになりたい!」という強烈な憧れがないまま業界に入ったわりには、その後の猛烈なプロ化、プロフェッショナリズムっていうのがすごい! 弊社の会長でコンセプターの坂井直樹さんに聞いた言葉で、「アンラーニング(unlearning)」(*2)という概念があるんですよ。言葉どおり、最初から完璧に学ぼうとはしないということ。 僕もそういうタイプで、新規事業などの案件は、ゴールのイメージが先に来るんです。「農業のしくみって、もっと効率的にできるんじゃないか?」と思ったら、そこに突き進む。すると「土壌改良しなさいよ」とか、「ドロッピング(灌水)は?」とかいろいろアドバイスをされる中で、全く分からないけどワーっとやって、気がつくと学んでいる。実はちょいちょい失敗はしているんですけど、自分の中では「失敗」という認識を持ってない。それって「アンラーニング」なんです。だけどゴールに向かって、「これ何だろう?」「どうすればいい?」と一つひとつ解決していくうちに、いつのまにか気づくとプロになっている。
リーナ:あぁ~。そうかもしれないです。私もそういうタイプです。
福田:のんちゃんやタレントみなさんの活躍のおかげで、「福田にエージェントをやってほしい」という、芸能界からのお声がけをいただくことがたくさんあります。でも、これまでの芸能界のイメージを捨てきれない人が多くて、「仕事を取ってきてくれる人」と思われることが多々あります。一見正しいんですが、でもそれは誤解で、僕は今まで仕事を取ってきたことなんか全然ないんです。 どういうことかというと、いつも考えているのは、そのタレントさんにどんな特徴があって、どういう社会との接点、関わりがあるのかということ。企業のブランディングの仕事のとっかかりと一緒なんです。今回のようなインタビューもそうですが、そういうことを考えながら「こういう人と、こういうことを試してみたらどうなんだろう?」と組み合わせを考えるうちに、仕事が仕事を呼ぶようになって話題が生まれる。とかく芸能界は「オレ、テレビ局の幹部を知ってるぜ」とか「プロデューサー知ってるぜ」とか、そういうコネクションでもっていこうとするイメージがあるみたいですけど、そんな20世紀ビジネスのやり方では、21世紀ではもう限界があると思うんです。
リーナ:今はとくに、変化が速くなっていますからね。
福田:そう。アメリカ人と中国人が得意なビジネスの仕方で、「リモートトラスト力」と言うんですけど、知らない人と億単位の仕事をいきなりできるかどうか。そういう能力が求められています。だから考え方を進化させていかないと、21世紀は新しい仕事を発展させることが出来ないと思うんですよ。時代の節目で、「テレビからネットだ! 配信だ! グローバルだ! アジアだ!」とパッと変わった時に、「これから、どうしたらいいのでしょう」となってしまう。相談に来られる方には、まずはSNSという自分のメディアを駆使して、情報発信することをおすすめしています。そういう基礎的な……DXっていっても、SNSなんて初歩じゃないですか。スタジオと家にお迎えが来て、そのくり返しで「世の中のことを何にも知らない状態」からいち早く脱出することを考えないといけない。 そういう意味ではリーナは、非常に自然に近い暮らしの中、理系一家で、テクノロジーの学びも刺激もあって。アナログもデジタルも、豊かな人間的な経験が育まれて武器になっているように思います。
リーナ:ありがとうございます。そういう意味ではとても恵まれていて、自由度がある環境で、ずっと生きてこれたのかもしれません。
(*2)いったん学んだ知識や既存の価値観を批判的思考によって意識的に棄て去り、新たに学び直すこと。
(後編へ)