お寺でアートを表現したい
福田:以前伺ったときに、東凌さんが両足院をギャラリーにして、アート作品を公開していると知り、また驚かされたんですよね。それはどういう発想からだったのでしょうか。
伊藤:江戸時代をはじめ、学校や美術館がない時代には、お寺はもともと、「本物を見て学ぶ場所」でした。時代が進んで、学校や美術館の誕生とともに、役割はそちらに譲ったわけですけども。その力を握っていた江戸時代、遡ると桃山時代のものを中心としたクォリティの高い作品を、今はお寺もまた公開するようになりました。 私も、古くからある本物の作品を、過去のものとして終わらせたくないなと思ったのです。今は学校も美術館もあるけれども、そこでは知ることのできない新しい表現をお寺でも生み出して、それを多くの方に観ていただきたいなと。要するに、古いものをただ見せるのではなくて、現代の表現として挑戦したいと考えました。
福田:素晴らしいですね。
伊藤:歴史上、お寺にはこんな役割もあったと伝えることで、みなさんも何かインスピレーションを得て、さまざまな発想につなげていただくいい機会になればと思っています。
福田:僕は京都と大阪の間の山崎というところで生まれ育ったのですが、僕が知る限り、京都の僧侶の方ほど、たくさんのイノベーションを起こした方っていない気がします。マインドフルネス(禅)を一般の人にも分かりやすくしたりとか、アートを見せる場にしたりとか。両足院も以前、KYOTOGRAPHIE(*3)の会場として場を提供されていましたよね。かなり大胆な展示でしたが、ああいうことも許されるんだなぁと。
伊藤:まだまだ足りないですけれど、丁寧にさえやれば、できることはたくさんありますよ。それこそKYOTOGRAPHIEのときは、おそらくお寺が全く違う空間に見えたと思います。展示用に壁を造ったりはしていますけれど、建築物を傷つけることなく行う方法は、丁寧にきちんと時間をかければできるわけです。そこはとても大事なところですね。
(*3)KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭。京都を舞台に開催される国際的な写真祭。「KYOTO GRAPHIE 2016 両足院」では、アルノ・ラファエル・ミンキ ネン氏の展示を行った。