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マーケターは、 「知っているべき人」を知っていればいい

お寺が改革する”デジタル・ウェルビーイング”の世界   Talked.jp

福田:東凌さんは普段、有名無名の方問わず、素晴らしいアートを見つけてこられますけれど、どのようにキュレーションされているのですか。その幅の広さには、本当に毎回びっくりしています。

伊藤:それはまさに、ハンターの目で見ています。

福田:そうですよね。現代アーティストの山田晋也(*4)さんから、杉本博司(*5)さんから。

伊藤:アーティストの作品を観て、「何なんだ、その表現力は!」と感動するんです。自分では手を動かして表現することはできないので。ただ、思いとしては「こんな新しい伝え方をしたい」というものがある。それであれば、ユニークな表現者に「僕のこの思いを表現してくれませんか」とお伝えして実現させていく、その情熱は持ち続けています。

福田:アートプロデューサーでもあるわけですね。

伊藤:ただ不器用なだけなんですけれども。

福田:この世には、クリエイターとマーケッターの2種類でくくれる部分はあるんですよ。だから、東凌さんはプログラムを考えて提供するプロデューサーで、マーケッターに入りますね。例えば「アポロ計画」ってあるじゃないですか。英語では何と言うかご存知ですか。

伊藤:アポロ計画。プランとかプロジェクトでしょうか?

福田:と、思いますでしょう。それが「Apollo Programming」(アポロプログラミング)なんですよ。なぜかというと、アポロはドローンのようなものなので、乗組員は、向きを変えるぐらいしかできないんですよ。つまり遠隔操作で、ヒューストンから月まで行くようにプログラムされているわけなんです。だから僕は、今の時代はプログラマーにはなれなくてもいいけれど、夢をプログラムできるイマジネーションは持っていたほうがいいと思います。それがないから4500億円もかけたのにATMトラブルが続くメガバンクの「何が原因か分かりません」みたいなことが起きてしまうのではないかなと。  僕らのようなプロデューサー、あるいはマーケッターは、「知っているべき人を知っていればいい」。杉本博司さんがそれを表現する人であるなら、表現してもらったらいいし。そういうことによって東凌さんの思う両足院の基本コンセプトが表現されたら、それでいいんです。それは明らかに、無名の人のほうがより強いブランディングになる気はします。有名な人の場合は、先入観というか、いろいろなものをイメージさせてしまうので。それに、先述の現代アーティストの山田晋也さんはアートはご本業ではないのに、「こんなにすごい絵をつくったんだ!」と、ここで拝見して衝撃を受けました。

伊藤:山田さんいわく、「声を掛けられなければ、あの絵を人前に出す予定は全くなかった」とのことでした。

福田:山田さんのご本業というのは……。

伊藤:本業は「豊和堂」という、着物の制作販売の経営をされておられます。

福田:そういう方がDIESELと組んでアートを出しているというのは、すごいことですよね(2021 年5月、DIESEL ART GALLERY にて作品展示)。「禅体験もアート体験も、生きるのに自分には必要ない」という人はいまだにいるんですよ。だけど、「それは本当に必要なかったのか」と自問自答させたのが、今回のコロナだったのではと思います。だから、普段だったら行きもしない公園にみんな行ったりして、急に日比谷公園が混雑したりしましたよね。鴨川も、夜の9時頃なのに、リッツカールトンから三条のあたりまで行列でびっくりしました。そういうことを思うと、逆にネット次世代、Z世代の人たちがリアルを再発見しちゃったのかなと思って。

伊藤:そうかもしれませんね。

福田:そういった若い世代の人の可能性も考えると、両足院の試み、デジタル・ウェルビーイングは本当に楽しみでわくわくします。今日は本当に刺激的なお話、ありがとうございました。

伊藤:こちらこそ、ありがとうございました。またいろいろと勉強させてください。

福田:こちらこそ、また!

(了)

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(*4)1974 年京都生まれ。和装意匠制作の家に生まれ、代々残る文献をもとに染色技術に着眼し、復元や 創作に従事。皇室への作品献上、伊勢神宮や比叡山延暦寺など多数の寺社仏閣に作品を奉納・ 収蔵。2020 年 9 月臨済宗大本山建仁寺塔頭 両足院 にて、展覧会「胎内衆会 ーぼくらは何処にかえるのだろう」を開催。2021年5月DIESEL ART GALLERY で「imma天」参加。

(*5)1948 年東京御徒町生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨーク在住。活動分野は、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理、と多岐に渡る。作品は厳密なコンセプトと哲学に基づき作られている。8×10の大判カメラを使い、照明や構図や現像といった写真の制作過程における技術的側面も評価されている。

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