日本のファンドでハリウッド映画を製作
福田:さて、そんな“伝説のプロモーター”として知られる北谷先生ですが、最新のご著書『エンタメの未来2031』(日経BP)を拝読しまして、もうめちゃくちゃ勉強になりました。 アカデミックな視点もさることながら、NetflixやamazonプライムビデオといったSVOD(Subscription Video on Demand/サブスクリプションビデオオンデマンド)の未来からeスポーツから、仮想通貨とエンタメコンテンツの関係に至るまで、最新のエンタメ事情が本当にわかりやすく書かれていて。本当に音楽に限らず、放送、映画、スポーツなど、エンタメ業界では、もうありとあらゆることを経験されてこられたのだなと。
北谷:ありがとうございます。東京ドームの話が先になりましたが、もともとは放送から始めて、そのあと映画に行って、ハリウッドで初めて日本のお金を持って行って映画製作をするなど、いろいろなエンタメに関わらせていただきましたね。
福田:それはいつ頃のことでしょうか?
北谷:1980年代の半ばですね。ソニーがまだ、コロンビア映画を買収する前、パナソニックがユニバーサルを買収する前です。日本から初めてファンドを組んで、お金を持って行って、MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー・スタジオ)/UA(ユナイテッド・アーティスツ・コーポレーション/現ユナイテッド・アーティスツ・デジタル・スタジオ)/に対して出資をして、マイケル・J・フォックス主演の『再会の街/ブライトライツ・ビッグシティ』(1988年)という作品を投資して作ったのです。
福田:懐かしい!でも日本のファンドがハリウッド映画の製作をするなんてその時代にあったんですか?
北谷:それが初めてですね。そのときは、伊藤忠、サントリー、TBSからの出資をまとめて持って行って、映画の投資会社を作り、そこで製作を行いました。3本作ったうちの2本は外れて、1本だけは利益が上がりましたが、残念ながらひとつでも外してしまうと、日本の会社はそこで辞めてしまうんですよね。
福田:でも、1本は当たったんですよね?
北谷:ええ。でもその利益では、ほかの2本の損を取り戻せなかったので、トータルでは赤字じゃないですか。
福田:それでも、すっごいことだと思います。
北谷:そのとき、私たちにはオプションが2つあったんです。1つはMGM/UAでは「チェリー・ピッキング」と言うんですけど、今後一定の期間に製作する作品のリストを開示してくれて、「この中から好きなもの2、3本に対して、これくらいの金額で投資をしてください」と。そういうディールのオファーだったわけです。
福田:ものすごく良心的ですね。
北谷:良心的ではあるのですが、ピッカーが作品の選択を間違っちゃうとそれでアウトです。
福田:つまり、目利きがないと。
北谷:そうです。目利きがいないとアウトです。そしてもうひとつ、ワーナー・ブラザーズからのオファーは、プログラム・ディールと言って「来年作る全作品に、これだけの金額をまんべんなく貼らせてあげますよ」というものでした。じつはその中に、なんと『バットマン』の初作が入っていたんです。
福田:すごいですね!
北谷:でも、日本のおじさんたちは……。放送局も入っていましたので逃げを打って、「我々には選ぶ力はありません。TBSさんのほうでピッキングしてください」という話になりました。TBSも一企業で、サラリーマンの集合体ですから合議制になって、この脚本がいいとか悪いとか、投票となったのです。そうすると何が起こるかというと、やはり聞いたことのある有名な俳優が出ている作品を選んでしまったんです。
福田:前例主義といいますか、どうしても丸い判断になってしまう。
北谷:ええ。作品の脚本を読み込んで、そこで判断するということが起こらなかった。「日本で名前が知られている俳優が出演している作品にだけ、お金を投じましょう」という結論になったんです。それで当時人気があった「マイケル・J・フォックスとフィービー・ケイツの作品でいこう」と。単純な判断になるわけですね。