日本の映画産業は、ビジネス構築が遅い
福田:私事なのですが、弊社の女優のんが主演・監督・脚本を担当している映画『Ribbon』を僕がプロデュースしました。先日テレビ雑誌のインタビューでもその話をしたのですけど、毎月お一人ぐらいプロデューサーの方が来られて、「こんな映画を作りたいので、資金集めを手伝ってください」と。シノプシス(あらすじ)と、「こんなすごい役者がもう決まっています」とはおっしゃるけど、ちゃんとした完成脚本を持ってこられる方がほとんどいないんですよ。
北谷:それはもう、グローバルスタンダードからいくと完璧にアウトです。ハリウッドのスタジオ、それから福田さんのような総合プロデューサーに作品ピッチ(プレゼン)をするときに、絶対必要なのはスクリプト(脚本)です。
福田:そうですよね。スクリプトですよね。
北谷:アメリカでは、企画のプレゼンには、スクリプトに「トップシート」と呼ばれるものがセットになっています。トップシートには、あらかじめコミットメントができている監督名、主要な俳優のエージェントなどが書いてある。つまり「この脚本でお金が付くのであればやってもいい」というコミットメントが、現段階で取れていますよ、という証明書です。そこまで決まっているものでピッチに持っていって、はじめて土俵に乗ることができる。だから基本的に、投資はやはり脚本勝負なんですね。 さらに日本とアメリカの一番大きな違いは、スタジオから支払われる「デベロップメント・コスト」のしくみです。「この作品が本当にクランクインできるかどうか分からないけど、この脚本は素晴らしいから100万ドルを払いましょう。その代わり、この脚本はまだ第一稿段階だから、著名な脚本家組合員のライターに手を入れてもらい、最終版を作りなさい。それまでのデベロップメントに関する費用は、スタジオのほうで出してあげます」ということですね。
福田:いいものを作るための資金ですよね。
北谷:その通りです。もっと面白いのは、これが投資や投機の対象にもなる点です。たとえばあるスタジオが福田プロデューサーに1億円を払って、ある作品をデベロップしたとしますよね。ところが、それがいつまで経ってもクランクインされないとする。「じゃあユニバーサルで製作させよう」と転売するんです。そのとき、作品によっては転売益が出たりするんですよ。プロデューサー側は実際に撮影されて作品になればそれでいいわけですから、お互いがメジャースタジオの中で企画をシェアリングすることによって、ちゃんとビジネスが構築されているのです。
福田:投資・投機の対象にもなっているということですね。
北谷:そうなんです。ところが日本はこのスタジオのシステムに全くなっておらず、まさに個人的なつながりだけ。「福田さん、お願いします」と言われても、お願いされた側の福田さんは、「自分の権利って何なの?」となる。作品のためにいろんなところに話をすれば、当然経費だって発生しますよね。それをどうやって会計帳簿に付けるのか? それがアメリカの場合は、全部作品に紐づいている。