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インターネットで失った「撮影の緊張感」

広告を語ることは、世の中を語ること。~広告界の巨匠に聞く、「夢中」の見つけ方(前編)   Talked.jp

福田:本の話に戻りますが「広告って、なんでこんなにつまらなくなったんだろう?」という疑問が氷解しました。「ああ、そう言われてみればそうだな」って。 CMのプロマネだった時代、僕はコカ・コーラのCM現場でパシリをやっていたんですが、映像はサンゴー(35㎜)で撮っていたんですよね。だからフィルムの編集では手を切ったり、「1コマ探せ!」なんて言ってやっていたりしたわけですが。

杉山:うん、そういう時代だもんね。

福田:コカ・コーラの中身がスパーン!と飛び出る映像を撮るために、特撮映画みたいにいろんな仕掛けをやっていた時代です。僕はその後デジタルマーケティングでP&Gと10年ぐらい仕事をしましたけど、いまは本当にデータ主義になっているなと実感しました。「赤の色をピンクにしたら トラフィックが2レベル上がった」みたいな。それはもう、ウォール街のAIによる金融取引みたいな世界になるわけですね。明らかに、インターネットが広告の価値、役割を見失わせたなと思いました。杉山さん、それについてはどうなんでしょう?

杉山:まず、CMはすべて35㎜で撮影されていたというのは、本当に贅沢なことでしたよね。だから70~80年代がいちばん、華やかだったと思います。テレビコマーシャルのクオリティが圧倒的に高かったので、普通の人が見ても、番組とテレビコマーシャルのクオリティの明らかな違いが分かった。それで番組の人間がすごく怒っていてね。「オレだってサンゴーぐらいで撮りたいんだよ」と。それで本当に、1回だけテレビ局から電話がかかってきたことがあったんです。「お前のCMが流れると、オレの番組がつまらなく見えるんだよ! ガチャン!」って(苦笑) でも、今考えるとやっぱりそのくらいクオリティは高かった。だからCMがつまらなくなったのは、サンゴーで撮影しなくなってからじゃないかな。(You Tube撮影チームを見ながら)…サンゴーって言っても、分からないかもしれないよね(笑) 

福田:35㎜フィルムのことですね。私が関わっていた時代は、フィルムで撮った素材を短く尺を指定して東洋現像所(現イマジカ)のスペシャルエフェクト「ムービートーン」をしてもらうんです。恐ろしくお金がかかったので、全部はデジタル化できない。それで、安田成美さんの口紅のコマーシャルで「きれいな赤をメイクで再現しなくても、後から“ムービートーン”で色を付けられるからいいや」と。90年代初頭ぐらいから、そんなふうになってきたと思います。前は「やっぱり空気感が違うから、ハワイに行って撮るか」とか言っていた人が、「もう港区内で完結だ」となった。あれが意外と功罪があったんじゃないかと思うんです。

杉山:フィルムっていうのは、現像というブラックボックスがあるからね。すごく正確に言えば、「映っているかどうか、見てみないと分からない」。だからこそ技術が必要で、経験が必要なんですけど、そこにはある種の緊張感があるじゃない。その緊張感を、完璧に失ってしまったよね。

福田:僕も若い時のパシリ時代にロケに行ったりなんかすると、テストフィルムを見る場所がないから、成人映画館を夜貸し切りにして試写してました。

杉山:ああ、ラッシュしていたんですね。

福田:ええ。で、次の日にまた撮影みたいな感じですよね。

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