黎明期のデジタル広告は、日本が強かった
福田:僕は2002年頃にデジタルマーケティングを始めて、P&Gと10年以上仕事したので、データをベースとした広告を徹底的に学びました。クリエイティブ オプティマイゼーション(*4)と言って、広告バナーを何十種類も作るわけですよ。赤がいいのか黄色がいいのか、じゃんじゃんじゃんじゃんデジタル出稿して一番インプレッションが高いものの要素を抜き出して、ひたすらクリック率を上げていく。無味乾燥なやり方ですけど、効率はいいわけですよ。僕、それでモノが売れるんだったら、今までの自分のあの「一コマ探してこい!」というのは何だったんだろうと思ったんです。杉山さんは、デジタル広告の未来というものは、どのようにご覧になっていますか。
杉山:最新刊の『世界を変えたブランド広告 』 (日本経済新聞出版) のほうでは、「世界を変えたデジタル広告」として10編を選んだんですよ。そうしたら全部、黎明期のものだけになったんですね。「BMWFilms」(BMW/2001年)と「BouncyBalls」(ソニー・ブラビア/2006年)など。
福田:全ての広告に共通するのは、ストーリーがあって、五感をくすぐる要素が散りばめられています。広告で単に新商品を知る以上にクライアントの企業姿勢みたいなものまで伝わってくる。 この新刊も勉強になります。読者の方、詳細はぜひご著書をお読みください!
杉山:黎明期は、僕たちがコマーシャルを始めたころと似ていて、宣伝部もよく分かっていないから口を出せないという、3~4年間くらいのエアポケットがあったんだよね。だから、その間のデジタル広告はめちゃくちゃいいんだよ。かっこいいし。そこで(ユニクロのデジタルメディアディレクションで知られる)中村勇吾さんが出てきたりしてね。新刊にも書いたんですけど、世界最大級のクリエイティブ祭「カンヌライオンズ」で高く評価されたデジタル広告を見て、「これは日本人が勝負できるな」と思ったんです。巨大な物語はやっぱりアングロサクソンにかなわない部分があるけれど、テクノロジーを使って体力のない部分を補うことができれば、これは結構勝てるなと思ったの。
福田:面白いですね。
杉山:それは僕自身が実際、ものすごく近くにいて、目の前でプラスチックスとかYMOとか、彼らが成功しているのを見てきたからね。デジタルになった瞬間、「日本人、これ行けるな」と。中でも2008年のユニクロのブランド広告「UNIQLOCK」は、世界の三大広告賞といわれるカンヌライオンズ(チタニウム部門・サイバー部門両受賞)、クリオ賞……なんだかんだって大きな賞を世界で3年間くらい受賞して、「デジタル・クリエイティブは日本が強い!」っていう鮮烈な印象を世界に残したんだよね。
福田:そうだったんですか!
杉山:その時は、「デジタルクリエイティブは日本だ」となったんだけど、今は全然、皆無。著書ではそれを意識して選んだわけじゃないけど、結果的にあのちょうど黎明期、いろんなクリエイターが世界に出ていった、あの間だけだったなと思ったわけ。
(*4) 最適なバナーデザインを発見するためのアドテクノロジーのひとつ