プロこそ「アマチュア」であれ
福田:コンセプターの坂井直樹さんが僕について、「あなたはね、プランド ハップン セオリー(*5)の人だ」とおっしゃったんです。何のことだろうと思って調べたら、3~4年前にアメリカで流行った理論だったんですね。「キャリアというものは偶然の要素によって左右されるものが多く、偶然に対してポジティブなスタンスでいる方がキャリアアップにつながる」という考え方です。つまり、もうMBAを持ってるのはダサいと。あんなものは会計学の一種だと。プランドハップンとは行き当たりばったりのことだから、まずはあそこまで行こう。そうすれば次が見えるから、まずそこまで行こうよ、と。
杉山:そう、それなんだよ。
福田:冒頭でお話した植村伴次郎さんが、まさにそうだったんです。植村さんというのは、事業戦略が全くない、プランド ハップン セオリーの方だったんですよ。 ある時「福田君」と。「今からカーテンを買いに行きます」と言って、突然ミラノに行くんですよ。そこで日本にはないようなデザインの花柄のカーテンを買って、日本に帰ってから帝国ホテルのカーテンとして納入するんです。で、そのあと接待があったんですけど、「福田君、皆さんにお土産を持ってきてください」と言われて差し上げたのが、高級日傘だったんです。それが、帝国ホテルのカーテンを作った余りの生地で防水して作ったものだったんです。
杉山:なるほど。素晴らしいですね。
福田:でもそれって、最初から計画したものではなくて、プランドハップンなんですよね。たぶんそういった植村イズムが僕のルーツなので、だから若いビジネスマンから事業戦略を教えてくださいって言われることがあるんですけど、ないんです。全然。 ただ、数字はむちゃくちゃ強くなりました。植村さんはね、報告時に「1億9千万円です」と言うと怒る人なんです。1億9千何千何百何十何万円って、円の単位まで言わないとすぐ怒られました。今でも、僕はそこも変わらないです。数字のことだけは細かい。あとは自由ですけどね。
杉山:数字はいちばん、嘘を言わないからね。だから、一般的に「クリエイターが数字に弱い」と言われること。これが嫌なんだよ。だから「意外にあいつ、数字、怖いぞ、知ってるぞ」と言わせたい。ピッて、こうフェイント入れたいんだよね。
福田:分かります。裏をかいて全部できる。その根底にあるのは、「アマチュアリズム」じゃないですかね。僕も今、バーやホテルを作っていますけども、バーのこともホテルのことも全然分からないんですよ。「ホテルの非常口のライト、何ルクス?」とか。何も分からないんですけど、でも気になるんです。10席ぐらいのバーでは、水はどういうものを何リットルぐらい用意するのか、意外と誰も知らないんですよね。でも知ることはできる。会社経営もそうで、数字を知ることで、経営の基礎は理解できるようになりました。
杉山:まさにね、アマチュア。僕、それはイギリス人に教わったんですよね。「アマチュアの意味を、君は間違っていないか?」って言うので「何?」って聞くと、「アマチュアは、プロになれない人のことをいうんじゃなくて、プロになりたくない人のことをいうんだよ」と。プロに届かない人をアマチュアというのではないっていう。だから僕は、プロのアマチュアになろうと思ってずっとこれまできました。
福田:もう……大先輩、心に刺さりましたよ、その言葉。やっぱりコロナで禁欲主義といいますか、そうならざるを得なかったですよね。ハグしちゃいけないし、外出ちゃいけないし、集まるのも駄目になった。アフターコロナは、どういう世の中の需要が喚起してくるでしょうか。禁欲主義から快楽主義に移行して、2023年からはものすごくバブル時代っぽい快楽が来たら面白いなと思うんですよね。
杉山:それは面白いね。
福田:もうみんな狂ったように、旅行だ、ブランド品だ!と(笑)
杉山:それには、やっぱり「欲望」だよな。
福田:欲をどう喚起するかですね。アフターコロナが快楽主義であってほしいです。
(*5)1999年にスタンフォード大学のクランボルツ教授によって提唱されたキャリア論
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