努力は、夢中に勝てない
杉山:で、何を言いたいかというとね。「デジタル・レーニン主義」(*3)っていう言葉があるじゃないですか。 結局、自由というのはさ、その裏返しに「孤独」があるじゃない。で、人々はもうほぼ今、その自由に疲れているんだよね。自由は、自分で判断しなければいけない自立も伴う。それなら自由は放棄して、一生面倒見て、安全にしてくれるなら、もう管理される側を選ぶよっていうことなんだよね。
福田:面白いですね。お上が決めてくれたほうがいいと。
杉山:それにインターネットってぴったりなんだよ。もう自分で決めるのも面倒くさいし、孤独は嫌だし。自由を売るから、その代わり一生面倒見てねという。それで楽になるという流れ。
福田:その傾向は、ネット上でもちゃんと現れてきていますよね。だから今どきは「何になりたい?」と尋ねられても、なりたいものが何もない。ネット以前は「スパイになりたい」とか「野球選手になりたい」とか、何かありました。インターネット時代は、どんなリアルな経験も疑似体験できてしまうところがあるし、生きることにリアリティがなくなってしまいました。 お金を稼ぐということは、何かの欲望とのトレードオフですよね。「買いたいものがあるから稼がなきゃ」みたいなこと。それがインターネットメディアの普及で無くなっちゃいましたよね。
杉山:そう。あれ、なんでだろう? まず、欲望が薄くなる。
福田:なりますね。
杉山:そうやって「夢中」というものがなくなると、人間は進歩しない。孔子の論語に、「努力は夢中に勝てない」という言葉があるの。
福田:ピンときます。
杉山:夢中というのは憧れる、ということだよね。だから、人でも物でも思想でも何でもいいんだけど、夢中になるというのは、一回「100パーセント全降参!」しなきゃいけないの。もうそれはさ、「あなたのここは大好きです」というレベルではダメで、すべてが好きじゃなきゃいけないわけ。
福田:僕はバブル世代に社会に出ているので、「クリスマスイブにはガールフレンドと過ごす為に赤坂プリンスホテルをとれないとダメ」という世代だったんですね。
杉山:赤プリをね(笑)
福田:そんなの今の人に言うと、「ぽかーん」ですよ。赤プリももうないわけですけど。「なんでクリスマスイブに、しかもそんな混んでるときに、バカじゃないですか」って。でもあの時代は、欲望丸出しで生きてました。
杉山:そうだよね。それはだけど、やっぱり大きな「夢中」でしょ?
福田:夢中です(笑)最近、弊社がエージェントしてる女優のんが『さかなのこ』というさかなクンの半生を描いた映画で主演を演じまして、日本アカデミー賞の優秀主演女優賞を受賞しました。のんは、さかなクン役を演じたんですけども、やっぱりさかなクンという人には「夢中」がありましたね。代えがたい、「夢中」がある。
杉山:そうですよ。「夢中」を失うとね、人はね、大きくもなれないし、クオリティーも上がらない。だからやっぱり、努力は夢中に勝てないということだね。
福田:もう本質的な結論を伺ってしまいました。この対談、これで終わりですね(笑)
杉山:ははは!
(*3) デジタル技術を駆使して国民の情報を管理し、その行動まで規制していく強権的な政治思想・スタイルのこと