デジタルの描画風景を映像に
彌永:2回生の前期までは基礎でした。最後のときに、デジタルのペインティングをちょっと出したんですけど、それはまあまあ評価がよかったんですね。
彌永:この作品のコンセプトは、「描画による記録とその描画の記録」。まずテンプレート(下地)として◎、○、△、×を描き、その日その時の気分で下地を選んで描きました。(◎:良好、○:ふつう、△:あんまり、×:良くない) また、その描画記録も残しておき、映像としてデジタルフォトフレームで展示しました。 でも基礎が終わって自由制作になってから、「本格的に油絵をやったことがないのに、いきなりやりたいことをやるのは違うのかもしれない」と思って、半年くらいは油絵を続けてやっていたんです。でも、どうもしっくりこないというか……。やっぱり自分はずっとパソコンで、色と形でイメージを描いてきたので、「物質」に対しては弱いな、と。
福田:色と形。それは、造形の中ということでしょうか、デジタルだから。
彌永:デジタルはやっぱり色と形だけじゃないですか。質感がなくて。そういう意味で、ちょっと物質に弱いなって。
福田:物質が持つ「素材感」に、違和感があった。
彌永:そうです。他の人はけっこう、下地や絵の具にこだわったりしていたんですけど。私は何でもいいみたいな感じになっちゃって。
福田:こだわるポイントはそこじゃない、と。
彌永:ずっとそういうことにこだわってやってきた人たちに、自分が今から油絵をやって、新しくて面白い作品、表現を見せつけるみたいなことはできないな、と。なのでちょっと違うかなと思って。
福田:そこからは?
彌永:はい、ずっと悩んで、どうしたらいいかわからなくて。もうそのときは油絵をやる頭になってしまっていたので、それでうまくいかなくて悩んだ末に、やっぱりパソコンで描いた絵を……今の作風に近いんですけど、その映像をプロジェクターで発表のときに流すことにしました。3年の後期ですね。さっきお話しした作品のことです。自分としては半分やけくそみたいな気持ちでした。そのときはリアルな、肖像画みたいなものを描きました。
福田:ずっとデジタルで?
彌永:そうです。描画していく様子を映して。今と一緒なんですけど、大きいスクリーンで流したら、先生が「面白い」と言ってくれて。そこでやっぱり、「自分はデジタルでいいのかも」と思えたんです。