スタイルの確立
福田:完全にいろんなものが解き放たれた状態にあるんですね。額装されたのが最初の出会いだったら、ここまで関心を示さなかったかもしれないです。今のあのむき出しの感じがよかったので。僕はもともと、メディアアートはちょっと苦手なんですよ。
彌永:私も、展覧会に行くと映像作品は飛ばしてしまうことが多くて……。
福田:同じ!
彌永:時間を取られる感じとか、全部見ないと話がわからないとか。「もの」として見てもらったほうが面白いかなっていう思いがずっとありました。だからたんなる映像作品にならない工夫をずっとしていた感じです。
福田:素晴らしいですね。
彌永:2019年1月か2月くらいに、文化博物館で京都府の新鋭選抜展という、若手アーティストが公募で選ばれる展示会があって、それに選ばれたんです。それまでは小さいモニターだけで出していたんですけど、1人180cm×180cmという規定があって。ここで小さい作品を出しても目立たないなと思ったので、その時は1.8m×1.8mの作品にしました。
福田:それはすごいですね。
彌永:そのときに初めて大きく……。モニターのまわりに大きいアクリル板をつけて、洋服をかけるようなものをつけました。それで、小さい作品がいっぱいあるという状態のものを出して。これがきっかけで、試行錯誤しているなかで額縁からも自由になれたし、ラズパイにモニターを付けただけのものとも違う作品になったし、こういうやり方がいいかなと。
福田:彫刻っぽいですよね。立体だから。
彌永:これも評価していただきまして、4番目くらいなんですけど、読売新聞社賞をいただきました。それでちょっと自信がついて。大学で油絵専攻にいたときも、やっぱりどれだけ面白い作品を作ったと思っていても、選ばれるのは油絵なんですよね、大体。
福田:そうですね、みんなどうしても古い固定観念があるから。
彌永:構想設計出身の先生もいるんですけど70%くらいは油画出身の先生なので、自分が選ばれるとは思ってなかったから。電話がかかってきたときも、機材の不調かなと思って出たら受賞の連絡だったのですごく……。素直に嬉しかったです。取れるとは思ってなかったので。
福田:でもこの話、そこを評価された部分が面白いですよね。「転がし方より見せ方」みたいな部分でもあるというか。
彌永:はい。これで大きいものの作り方もちょっとわかった感じがして。これは、これくらいのサイズの絵になったから、このくらいの透明の板でフィルムシートを貼って、ちょっと反射してる、みたいな。ここがモニターで、こっち側に絵が反射している感じです。これは小さいですけど。
福田:なるほど。その作品世界の展開の仕方がいろいろ思い付くわけですね。 これも面白いね。
彌永:これは一応、フォトフレームとして売っていたものなんです。これにA4くらいのサイズのポストカードを挟んで使うんですけど、そういうものを買ってきて。このクリップが、ハンダ付けするときに使う、押さえるものに似てるなと思って、電子機器と合わせたら面白いかなと思いつきました。それで反射のシールを貼ってみたりして。
福田:面白い。
彌永:これが福田さんに買っていただいた作品です。これは、それの前のKUNST ARZTの展示で、これとかはBnAにも置いてたんですけど、ものと組み合わせることをやり始めたのが今年の春くらいですね。