「デジタルの味」にこだわる
彌永:この辺はLINEのビデオチャットみたいなのを……イメージとしては、こういうのはパソコンの中にしかないモチーフだなと思って描きました。
福田:これはもう院生になってからですか?
彌永:そうですね、院生の1年生なので2017年…でも院2の頭くらいかもしれません。それで、ビデオチャットの作品を描いたのが自分的にも気になっていて。このときにiPhoneを使ってみたんですよ。iPhoneで映したほうがしっくりくるかなと思って。描いているサイズにも合っていたので。そうすることで、ちょっと先ほどお話しした絵と額縁の関係からも離れることができたと思いました。ちょっとしたフレームみたいなものは付いているんですけど。こういうの……ビデオチャットの。これは父親なんですけど。
福田:お父さんも作品になったんですね。
彌永:ちょっと私的すぎる感じでしたけど。そのときに、たまたま小さいモニターがあるのに気付いて買ってみたんです。ペイントソフト自体は古いものを使って描いているんですけど、そのソフト自体、あまり大きい画面で描けなくて。大きいモニターで映すと、無理やり引き伸ばされてしまって。
福田:それはタブレットが小さいから?
彌永:ペイントソフトで描ける範囲が小さいんです。マックスで800×800ピクセルとか。前のソフトはそんなことなかったんですけど、古いソフトを使っているから、最大がどうしても……。ウェブ上にある「お絵描き掲示板」というアプリを使っていまして、古いもので2000年くらいのものです。
福田:20年前ですね。たしかに古い。他のものは使わないんですか?
彌永:違うものを使ったこともあるんですが、結局戻りました。小学生から高校生くらいまで、「お絵描き掲示板」が流行っていたので、やっぱりこれでもう1回描いてみようと思って。
福田:だから、精緻な、壮大な絵は描かないわけですね。
彌永:そうですね。大きいモニターを使っていた作品のときは、どうしてもドットが見えてくるので、無理やり引き伸ばしていたんですよね。これとかは大きい作品なんですけど。
福田:それは気に入らないレベルの画像なんですか? それとも、あえてそういうことを見せる?
彌永:無理やり引き伸ばしているので、ぼんやりしたりとか、ガチャガチャになったりとか、そういうのはちょっと気になっていたんですよ。でも、まあそういうのもデジタルの味かなっていう気持ちもあったんですけど、やっぱり描いたときの状態を見せたいなっていうのがあって。
福田:常にそういうところにこだわるポイントがありますよね。
彌永:見過ごしてきたんですけど、小さいモニターがあることに気付いてからは、これだったら描いた原寸でいいなと。
福田:この小さいモニターは、もともと何のために作られたものなんでしょうね。
彌永:たぶん趣味で電子工作とかをする人が、これで小さいゲーム機とかを作ったり、そういう遊びをしているみたいなんですよね。
福田:僕はスーパーの値段とか、「こういう商品ですよ」って表示するためのものかと思いましたが、そうじゃないんですね。
彌永:この基盤自体はたぶん遊び用で作られていて、デジカメのモニターとか、そういうものに使われているパネルが流用されていると思います。Raspberry Pi用に作られてはいるんですけど。Raspberry Piの用途は本当に遊び用とか、小型パソコンを作って遊ぶとかみたいです。私はまだそこまではいけてないですけど。 でもこの小型のモニターを使い出してからは、結構バリエーションがあるのに気付いて。それからいろいろ買って試してみたりしていたのが、このくらいの時期です。このときは本当にモニターとRaspberry Piだけ。
福田:もう、一番純化したところにいったわけですね。この間みたいな有機体というか、物質の塊みたいな、吊るしたり……あれは面白かったです。
彌永:ありがとうございます。